最後に1匹

「毛鉤を振り回す怪しい輩が下手から迫ってますぜ」「そうか、でかした。皆のもの、油断するな」「がってんだ。身を隠せ~!」──水面下で、そんなやり取りがあるか否かは定かではありませんが、肩口にいたヤマメに奥に走られて、そのポイントを台無しにするというシーンが幾度となくありました。

──海の日が絡んだ3連休。予定されていた関西1泊出張が直前になって先送りとなり、土曜日だけは終日フリーの身となりました。こいつはラッキー。釣りに行けるじゃありませんか。ただちにメンバー諸氏に連絡を取ってみましたが、時すでに遅く、残念ながら先約ありとの返信が相次ぎました。家人のお出かけ計画に便乗するなど、ここのところは変則的かつ短時間の釣行が続いていたんで、丸一日、好き勝手にしてよいなんていうのは実に久しぶりです。

もっとも、金曜はなかなか仕事にけりがつかず、帰宅したのは日が変わった午前3時のことでした。これで寝てしまっては、もともこもない。連休初日は早朝から高速が渋滞することも懸念されるので、釣り道具一式をそそくさと詰め込んで出発することにしました。レッツゴー。

今日は日川の上流域でも探ってみようかな疲れきった頭でボンヤリ考えながらクルマを走らせます。油断すると睡魔が襲ってくるので、ハッカスプレーをシューっとやったり、窓全開で風に当たったりと、そりゃもう必死です。それでも、どこか抜けていたんでしょう。「都留IC 出口 2km」の標識が視界に飛び込んできた時点で我に返りました。あれ、やっちまった! 無意識のうちに、またまた鹿留川を目指していたのです。せめて、真木川あたりまで戻ろうかとも考えましたが、夜も開けてしまったので、そのまま鹿留林道に入ることにしました。何やってんだか。

いつもの場所にクルマを駐め、とりあえず一番乗りかなと余裕をかましていたら、すぐに1台が横を抜けていき、さらに10分も経たずに別の1台が同じく上流に向かって行きました。何だか混みそうな予感です。急かされるように身支度を整え、つい先日も辿ったばかりの川面に降り立ちました。じっくり釣っていたら、続々とやってくるアングラーがすぐ先に入渓するなんてこともありそうなので、ややハイペースを心がけて釣りスタート!

またまた鹿留川へとやってきました
またまた鹿留川へとやってきました

で、その後に待ち受けていたのが、冒頭に触れたような展開。いつになく番兵に走られて、好ポイントをものにできないのです。先を急ごうという気持ちが裏目に出ているかもしれないとアプローチに気をつけても、なぜだか気配を悟られてしまう一週間前まではこんなことなかったのになぁ。11匹が賢さを増すのと同時に、仲間との連携プレーでリスク管理し始めたんじゃなかろうかと勘ぐりたくなるぐらいです。

最初の3時間でチビ3匹。渋い状況に根気がついていかず、前日からの完徹の疲れも手伝って、しばし休戦することにしました。一旦、クルマに戻って昼寝です。あっという間に深い眠りに落ち、スマホのアラームに驚いて目覚めたのは4時間後のことでした。釣りに出かけて、こんなに寝たのは初めての経験です。

熟睡によって、とりあえず心身ともにリフレッシュ。後は、朝イチからのプレッシャーが一巡して、川の中も落ち着きを取り戻していれば良いんだけど!? どこに移動しても、すでに誰かしら竿を出したエリアだろうということで、午前に自分が釣り上がったルートを再びトレースしてみることにしました。まぁ、当たり前というか、状況が大きく変わることはありません。時々、フライを追う姿は見えてもスルーされるばかり。一級ポイントと見える所は特に音沙汰がないので、自分も見過ごしていた小場所を中心に攻めるしかありません。

しかし、2時間ほど粘っても釣果なし。せめて1匹、最後に顔を拝んで納竿したいところだけど、さすがに今日はもうダメか。半ば諦めムード、半ば惰性でキャストしていた時のこと、ごく浅い平瀬の隅っこでフライが消えました。反射的に合わせると確かな魚信があります。しかも意外と引きが強い!? 突然のことで焦ってしまいましたが、首尾よくネットに収めることができたのは…24cmのイワナでありました。その日の展開からすれば、上出来です。ふぅ。

数は釣れなかったけれど、瀬音と蝉時雨の中で長時間過ごすことができた一日(大半は寝ていたんだけど)。一瞬だけでも仕事のあれこれを忘れることができたので、よい気分転換になりました。エンドが決まっていて、常に時間を気にしていたここ数回の釣行とは異なり、終始マイペースで動ける釣りの楽しさを満喫したのでありました。

最後の最後に釣れたイワナです
最後の最後に釣れたイワナです

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